柳 真佐域ブログ

好きなものを好きなだけ語るのだ

氷菓

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小市民シリーズに続き、読み始めた古典部シリーズ。京アニが高クオリティでアニメ化したのでも有名な日常ミステリーの決定版。

 

主人公、折木奉太郎の一人称で語られる、灰色から薔薇色の青春へと向かう高校生活は、日々多くの謎が垣間見える。

 

気にしないと言えば気にしない。でも謎は人を惹き付ける魔力がある。

 

奉太郎の語り口、考え方は完全にミステリー小説の主人公のそれだ。

 

本人は自覚してなくても、彼には謎解き探偵の才能に、嫉妬の炎を燃え上がらせるほど恵まれている。

 

登場するキャラクターも探偵道具さながら、優秀有能そして、的確だ。

 

データベースの里志。超人的な千反田。助手役の(本人は青ざめた顔で絶対に否定するが)摩耶花。

 

言わずともがな、奉太郎は名探偵だ。

 

役割分担が非常に上手い。

 

鬼門の千反田に目をつけられた奉太郎には、ニヤニヤを禁じ得ない。

 

謎に翻弄される奉太郎を、古典部部員は嬉々として振り回す。

 

こんな青春が送れたならばと羨ましくなる。

 

抜かりなく奉太郎の実力を見定める千反田は強かだ。

 

なかなか本題に入らせないもどかしさも、ミステリーの謎解きを介してしまえば、むしろ読み進めるのにドキドキワクワクを掻き立てられる。

 

てか奉太郎たちの語彙力よ。

 

開架とか使わないだろう普通。

 

摩耶花が完璧主義であるというのは、少し意外だったが、言われれば確かに彼女は至らないのは恥ずかしいと思う性かもしれない。

 

勉強が人並み以上に出来るのもその点があるからだろう。だが、それ以上に行けないのも彼女らしい。

 

摩耶花が千反田邸で制服だったのは、私服は里志にだけ見せたいからだろうか。

 

奉太郎はホント、ふてぶてしい童貞だこと。

 

そして、アニメスタッフの手腕たるや。

 

千反田の「気になります」を決め台詞に、過剰なまでの美少女演出。

 

物語の節々にクラシック、特にバッハ無伴奏チェロプレリュードは、作品の雰囲気にピッタリ合っている。

 

読んでいて邪魔にならないし、1時間耐久BGMでもあったら良かったのに、と思ったら、YouTubeで1時間の動画があった。

 

京アニスタッフはやはり凄い。チェロの音は作品にマッチしている。

 

……ふん。コーヒーはまだか?(笑)

 

奉太郎は自分を過小評価しているし、周りのことも見くびっている。

 

奉太郎の世界は狭い。

 

当然、彼はちょっと推理が出来る普通の高校生なのだから。

 

茶店のやり取り、ともすれば普段のやり取りだって、情緒を感じる。

 

氷菓の名が最初に出た時は、ゾクリとしたものが走った。

 

氷菓第2号を読んだ時、得意気に(そうではない)推理を披露した奉太郎のことになどかまけていない千反田の様子が、とてもヒロイン化していていい。

 

それも決して届かないような薄いガラスの壁を挟んでいるような隔たりがある。

 

本題に入ってからの引き込み方が凄い。

 

里志があの場にいなかったのは正解だろう。

 

殺人事件は真犯人が誰で、どうやって殺したのかが分かれば、あとは犯人がペラペラと動機を話してくれる。

 

解決とはどこか解決して良かったねと言いたくなるようなニュアンスが含まれている。

 

だが、この日常の中に潜んだ、でも当人には深く食い込んだ謎は、きちんと答えを出すまで解決とは言わない。

 

その辺もこの作品の非常に上手いところだ。

 

一介の高校生らしいとも言える。

 

里志と奉太郎は友達にはずなのに遠い。

 

本物になりたかった偽物と、努力せず自覚せずの本物。

 

偽物の方が本物に憧れている分、本物より本物に近いというが、本物は完成されていてどうしようもない力を持つ。

 

その力は偽物なんかには到底埋めることは出来ない、深い闇が見えるほどの溝だ。

 

だが偽物が自分らしさを見つけられたならば、それは本物とはまた違った価値あるものになる。

 

そのことを二人を見ていると強く思う。

 

糸魚川先生の言う通り、奉太郎は少し不気味だ。

 

一般の人から(客観的に)見ればそれは正しい。

 

でもこの省エネ少年も感受性が低いわけではない。

 

一人称で語られているからそう思うのもあるが、良く感じて、自己に目を向けている。

 

自分がどんな人間で、どんなことが出来るのか、分かってはいるが知りたがっている。

 

氷菓の真実が分かった時(二度目の)ゾクリとしたものと同時に涙が込み上げた。

 

謎解きは一本の真実の道を辿る作業だ。

 

全ては繋がり、パズルのピースが埋まっていく。

 

その快活さが堪らなくいい。

 

オチが分かっているのに、楽しむことが出来たのが、この本が本当に面白く意味の在るものだからだ。

 

そしてあとがきでも不意を突かれた。

 

米澤穂信の周りは謎がうずめいているのかもしれない。

 

タイタニックを見てなかったら、一日で読めたと思う。

 

読書メーターのランキングでも上位にあるのは、この読みやすさと確かな面白さが起因しているのだろう。

 

本編が214Pとは言ってもその内容は、確かな読みごたえがある。

 

シリーズは続く。

 

これがデビュー作とは末恐ろしい。

 

米澤穂信は現在40歳。

 

これほどのものを自分が書ける姿は見えない。

 

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