悲嘆の門(上)
この前、過ぎ去りし王国の城を読んだばかりだが、久しぶりに宮部みゆきの分を読んだ気がする。
導入から過酷な環境の中で生きるマナちゃんの描写から始まり、息を呑んだ。
やっと今更になってだが、男性的な文と、女性的な文の違いが分かってきた気がする。
僅かな違いだと思うが、全然違うとも言える。
女性視点の文と、男性視点の文とでも違う。
年齢や人柄によっても違ってくる。
この違いが分かってきたのは、面白い。
大学生活に退屈していた孝太郎のやっとみつけた〈何か〉。
この辺りの書き方が上手い。
謎をチラつかせることで、物語に惹き込む。
孝太郎のサイバー・パトロールを始めるまでの決意が良い。
おや?と、なって興味半分で恐る恐る覗き込むのは、宮部みゆきの独特の手法だと思う。
そこから転がるようにトラブルに巻き込まれるのも。
一人称視点にも近い、宮部みゆきの文章の書き方だと、人物の頭の良さで、読み込み度が変わってくる。
ファンタジーであれば何も知らないでいた方が、読者も主人公と一緒の条件で作品に向き合えるが、本書はその一歩先の世界に踏み込んだ感がある。
そして人間の残酷さをかけるのも凄いところ。
そして残酷であるのと同時に、切実で、随分と余裕なく逼迫している。
謎に迫っていく不気味さ。実に見事。
山科社長が言った言葉は、もっともだと思う。
僕の好きな漫画『CLOTHROAD』のセリフにもある「一度出た言葉は二度と消えない お前は一生それを背負い続けるんだ」と、あるが、そのことと同義の教えだと思う。
死ね、などと言葉を発してしまった時、それは、自分は人の死を願える人間なんだということと、お前なんか死んでも構わないと切り捨てる、非常さを相手に味わわせられる人間なんだと、自分にも認識させる、とても心無い人でなしであるということだ。
普段からそういう言葉を使っている人は、本質的にも、無意識的にもそういう人間になっていくと思う。
口汚い言葉を使っていると、性格が粗野になるように。
思っていないことは言葉に出来ない。
言葉にしたことは、どんなことが当ても打ち消すことが出来ない。
事件が加速していき、孝太郎が捜査を始めてからは、ページをめくるのが怖い。
迂闊には読んでいられない緊張感がある。
孝太郎と一緒になって、事件の熱に充てられ、頭がカーっと熱くなる。
その分、胸は冷たい水をかけられているように、どんどん冷えていく。
孝太郎と真菜ちゃんの会合はゾクリと来る。
ミステリーではなくホラーを読んでいるみたいだ。そして、最後の一文。
完全にホラーだった。
都築さんも主人公の一人と考えていいのかもしれないが、まだまだ事件は真相を見せない。
宮部みゆきの真骨頂が見れるか?中巻へ続く。