弱者の戦略 ~オンリー1かナンバー1か~ 稲垣栄洋
およそ高校生の教科書に書くべき評論ではないと思ったが、最後の最後で「お?」っと思うところがあり、評価に悩む評論だった。
この世界に生きている生物は皆、棲み分けをして生きているのであり、そうでなく競争しあうようになると、たった一つの生物しか生き残らない。
でもそうでないのは、皆が平和に共存しようと、ある者は進化し、ある者は棲み方を変えざる得なかったから。
……全体を通して自然界の生物の話で、それを人間に落とし込んだらどうなるのか、という部分の論も薄いし、ダーウィンの進化論を全否定することもなく、
自分の論(他人の論)を展開するところに論の薄さを感じてしまい、読むに堪えなかった。
結局あなたは何が言いたかったんですか?と言わざる得ない。
しかし、結論部の所の、みんなが(自分の棲んでいる所で)ナンバー1なら、それでいい、
個性というのはナンバー1になり得る「ポジション」のことなんだという結論は、少し目を見張るものがあった。
もっと人間の話をして欲しかったが、それは僕が代わってしてみよう。
生きていく上で、ナンバー1になりたいという気持ちは、成長していく上で小さく限定的なものになる。
最初は誰よりも強く、誰よりも大きな声を持つことに憧れる。刃牙でいう男は誰でも地上最強に一度は憧れるという奴だ。
それが子供社会の中でも競争があり、弱い者は弾き出される。
大抵の人が自分なんてこの程度の人間なんだと割り切り、それ以降上を見上げつつ、自分以下の人達を見下し、自尊心を保っていく。
ここで得たポジションをナンバー1と思え、という今回の評論は、納得できそうで難しい。自分がいる位置に納得している人がこの世界に何人いることやら。
もっと上に、誰よりも強く力を持ち、全てを意のままにしたいという人もいるだろう。
何事も自分の思うとおりにならないから、人は考え、悩み、苦痛に耐える。
それをもっと気軽な気持ちにさせてくれるのが、今回の誰もがナンバー1のポジションにいるということなんだろうか。
僕、柳真佐域という人間の何がナンバー1なのか。……やっぱり大層な綺麗ごとを言ったに過ぎないと言ってしまった良いだろう。
今のポジションを得たことかが、君は君にとってのナンバー1なんだといっても、
それは世界に一つだけの花と同様に、綺麗ごとを真正面から言っているに過ぎない。
あれはSMAPが言っているから良く聞こえるのであって、名の知らぬ学者風情が使っても、ミリ単位も響くものがない。
人に何か教える時に、綺麗ごとで済ましてしまうその神経が分からない。
正論や綺麗ごとは言うのは気持ちのいいことかもしれないが、何の足しにもならないのは、このくらい地位のある人ならすぐに分かることじゃないのだろうか。
それが分からないなら、僕とは違う種類の生き物なんだし、そういう無責任なところと、
それでも権威がある学者様の言うことは、何にも響くことは無いし、得るものはなかった。
多分この人から人間の本質にかかわることは何一つ引き出せないだろう。
ナンバー1になることばかり考えている人間ばかりではないこと、その中でどうやったら自分の安住の地が築けるか、そういう風に切迫していることを知らないでいる。
自分は違う、苦悩や絶望とは無縁の人なんだろうか。
もっと愛のある評論であったなら、もっと変人じみたマニアックな視点があったなら、説教だったら物凄い上からでいい、中途半端に若く、
自分の中で固まっていない論を、多感な高校生に読ませて、何になるのか。
こういう評論が教科書に載っているから生徒は興味を失くしてしまう。
せめて長々と書かずに端的に書いて欲しかった。気持ちが伝わらんのよ。
こんな人が自分の築いた地位(ポジション)がナンバー1なんだと言っても、何の説得力もない。
高校生の好奇心を舐めないでほしい。この程度のことなら中学生でも理解できる。
弱者の戦略という大仰な本のタイトルも気に食わん。この程度の評論を語るためにSMAPの世界に一つだけの花を引き合いに出したことも許せん。
ふつふつと怒りが沸いてきた。これだから若い評論家は敵を作らないように当たり障りのないことしか言えなくてつまらない。
この評論を読んで救われる人がいるとでも思っているのだろうか。
いや思ってもみないだろうな。読んでほしい相手のことを考えて書いた評論でもないし、自分の興味関心好奇心からあふれ出た評論でもない。
ただ書けたから書いただけだという感想しか僕は抱けなかった。
しかも生態学者の意見かと思ったら、農学者って、あんたどんだけ説得力ないこと書いているのか分かってないだろ。
せめて専門家の意見が聞きたかったが、自分が趣味で調べたことをこうして本にして、
それを高校生が読んでくれる読み物になっているのは、どれだけ運がいいことなのか。
いやこっちからしたら大層な不運なんだけど。
だからこそのあの論の薄さか。非常にがっかりさせられた評論でした。
(こういう何のためにもならないのに偉そうにしているやつは本当に断罪したくなる)