柳 真佐域ブログ

好きなものを好きなだけ語るのだ

幼年期の終わり(要約) アーサー・C・クラーク 


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国連事務総長代理のピーターはストルムグレンの失踪から激務に見舞われていた。世界の新聞は、全人類が世界連邦に賛成することを支持している西側のグループと、国家の自尊心を第一に考える東側のグループに分かれていて、東側のグループはせっかく独立したのに、また主導権を奪われることを危惧していた。しかしそれは一般大衆の支持とは違った。国境警備隊にしても、長き血塗られた歴史に終止符が打たれることを身をもって感じ取っていた。ストルムグレンが失踪したことにより、人類はオーバーロードたちとの懸け橋を失った。それが意味するものは……。自由連盟の無実を主張する声が虚しくこだましていた。~

 

~ストルムグレンは真の闇で目を覚ました。突然音がして、暗闇の一部からするすると光が洩れると、一人の男のシルエットが現れた。再びドアが閉まると、今度は懐中電灯の光を真正面から照らされた。そして光源の主から、「目覚めのようだね、気分も良いようだ」と声を掛けられた。ストルムグレンは自分に麻薬を含ませて拉致したのが自由連盟だと当たりをつけて訊いた。影はそんな話はまだよしておこう、とりあえずは着替えと食事だと言い、ストルムグレンは、自分が地球上のどこだかわからない地下深くにいることを察知した。~

 

~影の声は自分のことをジョーと名乗った。ストルムグレンはこれまでにあるたったそれだけの情報で、ジョーがポーランド人であることを当ててみせた。ジョーは驚いたがストルムグレンの着替えが済んだのを確認するとドアの外に誘導した。廊下に灯っていた石油ランプの光で、ジョーという男の詳細が見えた。ジョーは百キロ以上もある巨漢で正体をつきとめるのはさほど難しいことではないとストルムグレンは思った。ただしそれもここら無事出られればの話だ。ここはおそらくどこかの廃坑だろうとストルムグレンは思った。ストルムグレンはこの誘拐をさほど心配していなかった。きっとオーバーロードたちが助けてくれるだろうと確信していたからだ。しかし、その確信も数日が経っていることから揺らぎ始めた。~

 

~廊下を抜け薄暗い部屋に入ると、二人の男が座ってストルムグレンを興味ありげに見ていた。男の一人がストルムグレンにサンドイッチを寄越した。ストルムグレンはありがたく受け取りサンドイッチを食べた。サンドイッチを食べながら三人を観察するに、二人の男はジョーの手下であることが分かった。渡された葡萄酒でサンドイッチの最後の一口を流し込むと、ストルムグレンは男たちの狙いを訊く。ジョーは、それを話す前にまずこのことはウエインライト(自由連盟代表)とは何の関係もない事を前置いた。ストルムグレンもそれは予想していた。ストルムグレンがどうやって自分をここまで拉致したのかを訊くと、ジョーは熱心にちょっとしたハリウッド製のスリラー映画のようだったと話した。~

 

~ジョーは自慢げにストルムグレン誘拐の手口を話すと、ストルムグレンはジョーがあまりに得意げに語るものだから笑ってしまいそうになった。だが同時に酷く不安にもなった。カレルレンが自分を保護しようと思っているかどうかは、ストルムグレンもジョーもわからないのである。だがらこそ、率直に手口を話して、カレルレンとの繋がりを験そうとしたのだ。腹の探り合いというなら、少なくとも自信を持った態度で相手をしようとストルムグレンは思った。こんな簡単なトリックでオーバーロードを騙せると思っているなら君たちは揃いも揃って大馬鹿だ、とストルムグレは嘲笑した。ジョーはストルムグレン誘拐の訳を話した。~

 

~我々も最初から暴力的な手段を持って交渉しようというのではな決してなかったのだが、オーバーロードと人類を繋ぐ唯一のパイプであるあなた(ストルムグレン)を誘拐することで、奴らに不自由さを味わわせることが出来る。そこから交渉は始まるのだ。ジョーたちのとった手段は、決して頭のいいやり方とは思えないが、オーバーロードたちとの関係の唯一の弱点を突いていた。オーバーロードの意志を伝える代行者としての自分(たち)を脅迫してオーバーロードたちへの服従を拒否すれば、今ある全体性は崩れ去る。しばらく黙っていた後、ストルムグレンは訊ねた。~

 

~私を人質にでもしようというのか?それとも……?ジョーはもうしばらくしたらある連中がここへ来る。それまでは待遇するつもりだと言った。ジョーが合図すると男の一人が真新しいトランプを取り出した。男は真面目臭くストルムグレンにポーカーの勝負を仕掛けた。男たちのユーモアにストルムグレンは職務上のあらゆる気苦労から解放された気がした。後のことはピーター(事務補佐官)出番であり、自分にはここから何もできることは無い。男たちは本気でポーカーを楽しむつもりでいるのを見て、ストルムグレンは何年振りかの大声で笑った。~