バカの壁 感想
目から鱗が落ちまくり、知らないこともたくさん知れて、メモを取る手が最後まで止まらなかった。
東大の解剖学医の教授という日本の頂点の頭脳を持つ人の著書だったが、思いのほか難しい言葉は少なく、幾らでも頭の良い文は書けるはずなのに、
大衆に読ませることが前提の話なので、高校生でも読めるような内容に書かれていて、これがベストセラーを書くということなのかと勉強をさせてもらった。
良い感じの負荷が脳にかかり、「おぉ勉強をしているぞ」という気持ちになる。本のタイトルの通り、人間をバカと利口に二分する内容が書かれていたが、この本を読み終えることが出来れば、バカの構造は理解できると思う。
多分、筆者は世の中の人がバカばかりに見えてしょうがないんだと思うが、それでも自分の周り、それも東大の教授という影響力が及ぶ範囲に関わる人々には、
バカでいて欲しくないという教育者としての愛があり、ひいては全人類が自分の言うことを聞いていれば、バカな行為をしなくなるという頭の良い人特有の傲慢に思っている感じがした。
今は古い老人の長い長い説教ではある。でも説教の中には、もちろん自分の考えを押し付ける部分はあるが、それでも必ず、話した人に間違った風になって欲しくないという愛情であって、
それは知識人から出る言葉が後世を憂う教訓であるということに間違いない。
難しくて理解できない部分はあったが、その前後の文脈を読み解けば、読むのが難しい本ではなく、終始飽きることなく読めた。
メモを取りながらの読書は、自分の理解力を試されているようで、一度でも止めてしまったら、慎重に積み重ねている知識が、ただの文字になってしまうヒリヒリとした緊張感を伴い、
著者が最後に語っているように、崖を上っているような感覚で、良い知識労働が出来た。
ただ18年前の本なので、普遍的なところはあっても、遅れてしまったところもまた感じられた。
時代のことを書けばそれは仕方ないことかもしれないが、普遍的な構造のところもあるので、そういう原理だけが書いてある本を読みたいと思ったが、原理主義は筆者が言うところのバカに通じる道に入ることなので、慎重にならねばならない。
解剖学医という視点が、人間を物質として客観的、科学的に見る視点だったので新鮮で、所詮人間なんてと割り切っていて面白かった。
幸不幸も、興奮も絶望も、突き詰めれば脳に伝わる電気信号に過ぎない。
天才にはなれないとしても、人(や動物と)の脳にそれほど違いはなく、大概の人間は考え方を変えるだけで、全然景色が違って見えることは、賢くなればなるほど色んなものの見方が出来るようになるということだ。
ただそれも途中で楽をしようとして、学ぶことを止めれば一気に人生の崖から転げ落ち、人生には努力が必要だと筆者は教えてくれている。
勉強をしていて思うのが、たとえ勉強をしていても毎日脳から記憶がこぼれ落ちて、自分の中に古い知識がどんどん消えてしまい、新しい知識がまた入ってくることで、
容量がいっぱいのメモリーにどんどん書き換えをしていることになってしまうこともあるんじゃないかと思って不安になるが、
そういう意識している世界だけで人間は出来ているのではなく、無意識の部分も三分の一あるんだ、だから勉強することは無駄じゃないんだとも筆者は言っていたような気がした。
結果論的に見れば、私はバカの部類に属すると思うが、自分に負荷をかける勉強の仕方は遣り甲斐があり、終わった時の達成感を考えるとそれが好きなんだと思う。
古くなったとしても覚えておきたい名著だと思うので、本棚に残す。