ことばと文化~ものとことば~ 感想
断定的な言い方の割に、結論部分が弱い。
一番言いたいところをあえて難しく書くことで、品位を失わないようにしているのかもしれないが、印象としては、大した文章ではなかった。
何が言いたいかを先に用意して書いてある気もするが、そこへ持っていく経路があまり良くない。
入りやすさを考えて、身近な道具から焦点を当てていくより、初めにことばあり、の強烈なインパクトを最初に持ってきた方が、興味をそそると思う。
冒頭と結論部で差があり過ぎだし、結論部の密度はこの文からしたら異常なくらい濃いので、配分を完全にミスっている気がする。
徐々に濃くなるように書いたのだと思うが、結論部の分かりづらさといったらない。
高校生にとっつきにくい話だと思われると、教材に選んだセンスが問われるが、難解な部分を入れることでふるいにかけたかったのだろうか。
人類が言葉を獲得した時代に、初めにことばあり、という概念は、感慨深いものがある。
作中にもあったが、人類が言葉を話すようになってから、人が物に名前を付けたのではなく、名前(言葉)の方が先にあったという、
鶏と卵説が唱えられていて、実際には、人類は初めにいろいろな言葉を作ったのかもしれないという考察が立った。
まだ、麦や石斧なんかの道具に名前がなかった時に、同時に言葉も生まれ、人間はあらゆる発音を覚え、言葉を紡いていったのだと思う。
その中で、呼び名がまず生まれて、だんだんとそれを文字にして、皆が共通に呼ぶようになって、名前というものが徐々に浸透していき、強い都市国家の残した言葉が一般的になり、それが継承されていった。
作者は言語学者ということもあり、この題材を選んだのだろうが、もっと言語学の観点から、ものの名前に関する意見を聞きたかった。
高校レベルではやはりこの程度しか見せてくれないのか。
しかし、日本語が下手な部分が幾つもあって読みにくかったし、先も言った通り、断定的な言い方の割に推論が多く、展開のさせ方もイライラさせられるものがあり、読んでいて素直に勉強になったとは言えない。
どことなく老害感を感じてしまって、これだったら『本当の自分 幻想』の平野啓一郎の方がまだ、現代の子供に近しい書き方をしていて好感が持てた。
説教なら説教で聞く気はあるが、なんとなく至らない感じがしてしまう。
言うほどダメではないが、テーマの割に内容の濃さにバラツキがあった。
やっぱり導入部が良くないんだと思う。
難しいことを書ける(書いている)ということは、普段はもっと難解な言葉遣いをしているんだと思う。
親切さが不慣れなのかもしれない。簡単な導入部から慌てて舵取りをしたのだろうか。
考えてみれば当たり前だが、言葉(名前)は人間が人間の立場で造ったもので、人間同士だからこそ共通で使えるものだし、
人間が育み培ってきた歴史が言葉という形で現代にも残っているんだということが言いたかったのだと思う。
自分で推論をたて、疑問を持ち、結論を出す一人議論を展開していて、小論文として書くには適していたのかなと思う。