すべてがFになる
久し振りに小説を読んでいると歓喜したが、wikiを見た時、何だ、ミステリなのか。と思ってしまうのは何故なんだろう。
ミステリがミステリーの進化の形であれば、きっとそんなに残念に思う気持ちもないのだろうが、どうしてもトリックを狡く感じてしまう自分がいる。
本書の雛型は、羊たちの沈黙(だろうと思う)なところも、評価に影響を与えているが、羊たちの沈黙より、真賀田四季の方が、天才感が強くて好感が持てる。
主人公、犀川と同じように、作者も実際に助教授を経験していることから、天才を書くに相応しい頭脳だということが窺える。
トリックに関しても、プログラムや専門用語はちんぷんかんぷんだが、それほど敷居を高い位置に設定していないように思う。
この領域の話が分かりたければ、勉強と才能が必要だよ、と言っているようだ。
ただ、ミステリー(ミステリ)であるのが惜しい作品である。
もっと天才の話を分かりたい。頭のいい人の考えていることがどんなことなのか知りたい。
それとノイタミナでやっていたアニメの出来も素晴らしい。
興味がある人はアニメとセットで保管することをお勧めする。
ミステリの弱点は、作者の都合のいいように物語が進行してしまうところだと思う。
読み終えると、ここはリアリティーがないなという箇所が、多々目につく。
そういう意味もあって、ミステリは不完全で完成度が低くなる。
一度読んでしまったら、それで満足(不満だが)してしまう。
それでも本書は、それだけで蔑ろに出来ないほど、読み物としての純度が高い。
ただやはりミステリーの部分がかったるく、純度を落としている。
本当に惜しいと思う。
本として残しておきたい気もするが、アニメのBlu-rayがあれば、それで気が済んでしまいそうでもある。
小説としてのエッセンスが高い位置にあることで、西尾維新のようなエンタメより、知的に感じる。
描写や表現も端的でキレイだ。
余計な味付けのない(食べたことは無いが)フランス料理を食べたような読了感。
本当に惜しいな。
続編や違うシリーズもミステリ(ー)のようなので、純文学としての森博嗣が読みたいと思う。
かなり前の作品だけど、それなりに強度があると思う。
アニメの西之園萌絵の慕いっぷりは、よく再現されていると思う。
天才になれなかった名探偵という犀川のポジションが凄く良い。
これから続く犀川(S)&萌絵(M)シリーズにミステリ要素が濃くならないことを祈って。