柳 真佐域ブログ

好きなものを好きなだけ語るのだ

幸福の無数の断片~新しい地図を描け~ 中沢新一

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総評

目に見えていない地図の存在は、盲点だった。

 

世界がまだ冒険心に満ち溢れていた時に比べ、近代に迫るにつれ、物質的体験のようなワクワクする冒険はこの地球から無くなっていった切なさが、文章から感じられた。

 

その代わりに、新たなる視点を持つことによって、新しい視野を広げることに成功したのだと思う。

 

冒険する場所がなく、つまらないと嘆くより、動植物たちの視点に立って世界を見ることによって、新しい発見や、対象がどんな視野で生活しているのかが分かり、より深く対象を(お互いを)知ることが出来ると言いたいのだと感じだ。

 

人間として生きている上で、目に見えるものだけを信じて生きることは、もちろん大切なことだし、それが見えていないと話にもならないが、目に見えないものに対する理解もあってこその人間の生きた方と、問いかけているようにも感じる。

ただ何かに例えなければ理解できないとする人間の浅ましさも感じて、もっとストレートに表現しても構わないのにとも思ったが。

 

壮大なテーマを語る上で、具体的な、それも思いもよらなかった分野を例えにして、それまで自分になかった視野の取り方を知ることによって、その先にある哲学や芸術に目を向けてみてはというメッセージを感じた。

 

それから、砕けた表現をすることで、読者との距離を縮めるテクニックと、若者に対して、世界はまだまだ未知な部分があるんだという希望を伝えようとしているのが分かった。これも一種の侘び寂びなのかもしれない。

 

冒険する場所が無くなってしまった博物学者たちは、現代の僕たちのように、この世界にがっかりしてしまったかもしれない。

 

それでも、今まで学者たちが築き上げた学問を一から流れに沿って学んでいくことも大事だし、その上で自分なりの新しい地図(視野)を見つける努力も必要なんだと教えてくれた気がした。