悲嘆の門(下)
孝太郎がどんどん強く、そして弱くなっていく。
強さとは自分の弱さと向き合えるものに分かるもの。
孤独で戦ってきたものに与えられるもの。
困難に立ち向かっているものに、気が付いた時宿っているもの。
相反するその二つが胸の中にあるから、人は人らしく生きていくことが出来る。
そして、常識を踏み越えてしまった者には、それなにの罰が与えられる。
遠巻きにあの人は凄い、あの人は鉄で出来ているみたいに強いと言われても、それまでに蓄積した痛みに、耐えた人だから本当に強くなれる。
実際にあった事件から、組み立てている感がある。
それほどに詳細が綿密に書かれている。
細かい心理描写が臨場感を生む。
ちょ、ちょっと孝太郎、暴走しすぎでは?!
……う~ん、そうじゃないだろ。ここへきて事件が予想から反したものに収束していく。
なんだか盛大に肩透かしを食らってる気分だ。
どうしてこう持って行ってしまったんだろうか。
違う、違うよ~。
宮部みゆきの書く人物たちの心の声が、子供っぽくて和む。
……あぁ、まただ。許容しきれない奴だ。
そうやって持ってくるか普通。
抉る。平衡感覚がなくなってくるまで抉ってくる。
目の前がぐちゃぐちゃになって気持ち悪い。
ここまできて、どうして。
そういう裏切り方をしてくると思わなかったが、そういう事が書きたいのか。
頭がぐわんぐわんする。
うぉぉぉぉ、宮部みゆきは悪魔と契約したんだろうな。
太く育った悪に立ち向かう正義は、鋭い牙をはやさねばならない。
光り輝く御剣ではない。怪物の牙だ。
残虐な悪の喉笛を噛み切る獰猛な化け物の牙。
ガラが何故ガーゴイルの姿をしているのか、そのことが分かる。
我が身可愛さで、闇の中でブクブクに肥えた悪に対して、正義のなんと脆く儚いことか。
悪というより悪意。
正義とは悪に目を背けなかった者に宿るもの。
正義には対価が伴う。
正義とは悪が存在するか在るもの。
この物語は、悪と正義の物語だ。
断罪。悪意。人間らしさ。異常性。物語。
最終章を書くために、今までのことがあったなら納得が出来る。
孝太郎が万書殿の底に行った先は、生命の死の世界。
涙。全てが終わって、安堵した時、涙が込み上げた。
間違いなく、これは僕の中で、一番の衝撃を与えた本になった。
読まなきゃよかったと思ったりもしたが、最期まで読むことが出来て本当に良かった。
抱えきれないほどの言葉が浮かんでくるが、それはまた別の機会に書くことにする。
本当にたくさんのことを教えてくれてありがとうございました。
宮部みゆきさん、あなたは最高の人です。